はじめから終わりまでご機嫌なアルバム、リチャード・エリオットの「SUMMER MADNESS」


はじめから終わりまでご機嫌なアルバム

リチャード・エリオットの「SUMMER MADNESS」

2017.04.23 公開
2020.09.06 更新

<第1回>
Richard Elliot リチャード・エリオット
SUMMER MADNESS

アルバム「SUMMER MADNESS」ジャケット
アルバム「SUMMER MADNESS」ジャケット

01. Cachaca 4:03
02. Breakin’ It Down 4:19
03. Europa (Earth’s Cry Heaven’s Smile) 4:22
04. West Coast Jam 3:59
05. Harry The Hipster 4:31
06. Slam-O-Rama 4:26
07. Back To You 4:44
08. Ludicrous Speed 5:11
09. Summer Madness 4:08
10. Mr. Nate’s Wild Ride 4:27

かつてのフュージョン全盛の70年代、本来(?)のジャズをそっち退けでボブ・ジェームスやリー・リトナー、そしてアール・クルーなどフュージョン系ミュージシャンの曲を無我夢中で聴いていたあの時代。
そう、あの頃は音楽界はフュージョン(クロスオーバーとも呼ばれた)一色だった。
なんたって、あのマイルス・デイヴィスでさえフュージョンに傾倒していったのですから・・・

そんな異常なほどのフュージョンブームも何時からか巷では影を潜め、やがて私の意識からも完全にデリートされていった。
こうしてみると、流行というものにはみんなが同じように盛り上がり、同じように一斉に去ってゆくという、ある意味、儚さと恐ろしささえ感じる。
だが、ここではそんな人間性について云々するつもりは毛頭ないのだが・・・

前置きが長くなりましたが、ここでお話ししたいのはリチャード・エリオットというイギリス出身のサックス・プレイヤーのアルバム「SUMMER MADNESS」について。
まさに、フージョンの生き残り的アーチスト、未だ頑張っていますといったところか。一言で言って、タイトル通りの真夏を感じさせる熱くノリの良いご機嫌なアルバムだ。

実を言うと、このアルバム、入手するまでに相当時間がかかった。
アルバムを知ったのはまったくの偶然。
リチャード・エリオットというサックスプレイヤーについても、お恥ずかしい話だがそのときまでまったく知らなかった。

CDジャケットに載っていたリチャード・エリオット

何が私を突き動かしたのか?
そう、ネットショッピングの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」の項目。まんまとコマーシャルベースにハマった次第。いわゆる「ジャケ買い」だったのだ。

そこまではよかった。しかし、某オンラインサイトに注文してから忍耐の日々が続くこととなる。
注文から入荷予定日まである程度の日数があったが、それでも予定日になっても一向に届かず。
更には「当初の入荷予定日が延びました」「再延長」といった内容のメールが数回届き、挙げ句の果てには「入手困難」なんて通知まで来た次第。

しかしながら、ショップ側からの廃盤の知らせやキャンセル扱いはなく、何時まで待たされることやらと困惑していたところ、アマゾンのサイトで「在庫1件あり」の表示を発見。
早速、先方をキャンセルしアマゾンに注文。さすがアマゾン& ヤマト運輸、それから数日で届くことに。
あの数ヶ月は何だったのでしょうか?

そんなわけで入手には苦労したものの何とか入手に成功。
果たしてお馴染みの「ジャケ買い」は正解かどうかが次なる問題。
でも、苦労の甲斐あって届いたCDは文句なしのご機嫌なアルバムだった。

前述のとおりリチャード・エリオットについてはまったくの未知数だったが、その後調べてみると、どうやらフュージョン系のプレイヤーのようで、いまの時代を生き延びていることが意外だったが彼の演奏を聴いてすぐに納得した。彼のサックスは以前のフュージョンとはまったく異質のサウンドだったからだ。
当時のフュージョン系のものは、ジャズへの対抗意識が強かったからか、どことなく肩肘張った不自然さがあったように思う。「ジャズとは異質のサウンドを創らなければ」と、個々のプレイヤーが意識し過ぎていたのではないか。

最近のフュージョンはジャズのスピンオフとしての位置づけではなくて、完全にジャズの一演奏形態と化したと言えなくもない。
言い換えれば、私たちが音楽(特にジャズ)に対してジャンルを意識しない、寛容な耳を持つようになったということなのかも知れない。

アルバムの中でのお薦めのナンバーは、何と言ってもアルバムのタイトルにもなっている「SUMMER MADNESS」だろう。
最初にこの曲を聴いて思い出したのが日本のMALTAがその昔リリースしたアルバム「Summer Dreamin’」の中の曲「A Letter from September」だ。

この曲は楽しかった夏が終わり、そのほろ苦い思い出を懐かしむ、そんな主人公の心情が想像できるバラードだが、この二つの曲は、夏の終わりの名残惜しさ、物悲しさが見事に表現されているという点では絶品である。

MALTAの「A Letter from September」が入った
アルバム「Summer Dreamin’」

しかしながら、何と言っても泣かせてくれるのがアルバム3曲目の『Europa』、そう、ご存知あのサンタナの名曲「哀愁のヨーロッパ」のカバーだ。
以前、別のブログの「音楽 聴き比べ」と言うコーナーでこの曲を採り上げたが、その時はまだこのCDはなかった(わたしの意識の中にもCDライブラリーにも)から、当然そこでは触れていない。
今なら、数あるカバーの中で、最も哀愁を帯びた演奏はこのリチャード・エリオットの『Europa』であると断言できる。
ある意味、オリジナルのサンタナの演奏を上回る刹那さを感じさせてくれるからだ。

上記2曲を除くと、アップテンポでノリの良い楽曲がほとんどだが、ギラギラ太陽の躍動感溢れる夏と去りゆく夏の哀愁を同時に味わえる、魅力的で完成度の高いアルバムである。

アルバム「SUMMER MADNESS」ジャケット裏面

かつてサンタナのギターは「泣きのギター」と称されていたが、リチャード・エリオットのサックスもまた「泣きのサックス」の形容が相応しいだろう。
最近では珍しい、全体的にまとまった聴きごたえのある一枚、必聴盤である。
思い切り泣きたい方は絶対買いですよ。

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