How’s everything? COFFEE BREAK:Sadao Watanabe 「ボア・ノイチ BOA NOITE」


 

渡辺貞夫 Sadao Watanabe 「ボア・ノイチ BOA NOITE」

from ALBUM 「HOW’S EVERYTHING 」

Sadao Watanabe HOW'S EVERYTHING
Sadao Watanabe HOW’S EVERYTHING

「ボア・ノイチ BOA NOITE」が収録されている
アルバム「HOW’S EVERYTHING 」

 

< Personnel >

Sadao Watanabe (as,sn,fl)
Steve Gatt (ds)
Eric Gale (g)
Dave Grusin (key,arr)
Anthony Jackson (el.b)
Ralph McDonald (per)
Jeff Mironov(g)
Richard Tee (key,p)

The Tokyo Philharmonic Orchestra
Jon Faddis (tp)

Arrenged and Conducted by Dave Grusin
「はじめに」でも書いたように、アルバム「HOW’S EVERYTHING 」は「調子はどう?」といった社交辞令の挨拶言葉。そして今回採り上げるその中の収録曲「ボア・ノイチ BOA NOITE」もまた「こんばんは」「ごきげんよう」「おやすみなさい」といった意味合いをもつポルトガル語の挨拶言葉である。作品を書いた渡辺貞夫がこの3つの意味のどれを想定して書いたかは定かでないが、曲が持つ雰囲気は軽快で爽やかである。恐らく、こんな曲が流れていたら人との付き合いも、睡眠もすべて快適ではないかと思う。理屈抜きに心地よい曲である。

1970年代の日本のジャズ界はそれまでの戦前戦後のジャズから新たなものへと移り変わる過渡期だったと思う。山下洋輔、渡辺香津美、増尾好秋、笠井紀美子など実力ある新しいミュージシャンが台頭してきた時代である。その中に渡辺貞夫もいた。

実は当時わたしは生意気にも「日本人のジャズなんて・・・」といったスタンスで、彼らには意図的に背を向けていた。そのため、その当時のことを偉そうに話す資格など到底ないのだが、何故か渡辺貞夫だけは好きだった。1972年から始まった小林克也のDJの「ブラバス・サウンド・トリップ 渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」は愛聴したが、毎週聴くほどの優等生ではなかった。
今思えば、何ともったいないことをしたのだろうと後悔しているが、諦めるしか仕方がない。

ただ、当時のわたしがなぜそうだったかと弁解めいたことを言わせていただけるのなら、次の一点に尽きると思う。つまり、日本人アーチストが作曲したジャズナンバーも演奏も演歌とまでは言わないまでも、どこか歌謡曲が入っているように思えたからだ。生まれ育った風土や環境から滲み出てくるサムシングを超越して、本場のジャズの魂を掴むにはそれ相応の時間と努力が必要だ。その点で日本のアーチストはまだまだと思った。演奏テクニックはあったので、ジャパニーズ・ジャズとして聴けば充分通用したのだろうが、当時の彼らが目指していたのはそうではなかったろうから、わたし自身も妥協はできなかった。ふり返れば、あまりに視野の狭い考え方だと反省しているが、その中にあって渡辺貞夫だけは別格の存在に思えた。

その当時、ジャズとは一線を画するジャンルに「フュージョン」という音楽があり、別名クロスオーバー・ジャズとも呼ばれたが、そのブームはジャズをも上回る勢いがあった。その証拠にかの帝王マイルス・デイビスでさえブームに乗り遅れまいと傾倒した時期があったのだから。
当該の渡辺貞夫もジャンル的にはその部類に属し、「カリフォルニア・シャワー」などその種の数枚のヒットアルバムを出し、代表アルバムの「マイ・ディア・ライフ」へとつなげて行くが、それから数年後のこの「HOW’S EVERYTHING 」を機に渡辺貞夫は大きく飛躍したと私は感じている。

はじめ、この曲のイメージは早朝の清々しい乾いた空気で、例えばハワイ、オアフ島のダイアモンド・ヘッド通りの海岸線をオープン・カーでドライブするのにぴったりなそんなイメージの曲と思っていた。だが、東京フィルのオーケストラをバックに心地よく軽快に流れるアルト・サックスの音色を聴いていると、煌びやかに光輝く夜の都会のビル群を颯爽と駆け抜ける白いアウディの車内で聴くのが最も相応しいと思えてきた。それはデイブ・グルーシンのアレンジによるオーケストラ効果なのだろうが、ストリングスの奥行きのある深い響きがまるで漆黒の闇を思わせ、その空間を音符という微かな光を頼りに駆け抜けるナベサダのアルト・サックスはリズミカルで乗りにのっている。
やはり、「ボア・ノイチ BOA NOITE」は早朝ではなく、夜の挨拶だったのだ。とその時気が付いた。

スタジオ録音を探したが、わたしの知る限りではなさそうである。
「あれだけのノリはライブでないと」と思うが、スタジオ録音ならどうなるのかと別の意味でも期待は高まるばかりだ。
ワタナベ様、遅ればせのリクエストながら、「ボア・ノイチ BOA NOITE」を次回のアルバムの収録曲にしていただきますようよろしくお願いいたします。

気分がブルーな時、是非聴きたい一曲である。

*残念ながらiTunes Store上には アルバム「HOW’S EVERYTHING 」は現時点ではありませんでした。スマイリー・オハラ氏の投稿でYouTubeにこれと同じヴァージョンがあるようです。

Viva! the Arts