ビル・エバンス&ジム・ホール 「アンダーカレント」
Bill Evans & Jim Hall 「Undercurrent」
おもて面に何もロゴがないのは
最近のアルバムではよく見かけるが、
この当時としては非常に意欲的な試み。
<アルバム情報>
1 My Funny Valentine 5:23
2 I Hear A Rhapsody 4:38
3 Dream Gypsy 4:33
4 Romain 5:21
5 Skating In Central Park 5:20
6 Darn That Dream 5:08
ビル・エバンス(P)
ジム・ホール(G)
1962年4月24日、5月14日録音
前回のマドンナ「ライク・ア・ヴァージン」に引き続き、今回もモノクロ的アルバムである。
モノクロ写真の時代にカラー写真が出現し、そのカラー写真が当り前になると逆にモノクロ写真に新鮮さを感じるというこうした複雑な感覚は、果たして人間だけに備わったものなのだろうか。ある意味、何とも移り気で我儘で欲深だと思うのだが、結局それでこそ人間なのかも知れない。
と言うか、そもそも動物の世界はモノクロと聞いたことがあるのだが...
冗談はさて置き、強烈なインパクトを期待するならカラーよりモノクロと言うのが今の定番。
このアルバムが発売された当時は、モノクロ感覚は至って斬新でユニークな印象だったはずで、前述した人間の色に対する複雑な感覚が認識され始めた頃だったのだろう。
モノクロジャケットに加え、ジャケットのおもて面にタイトルやアーチスト名を一切入れない試みも、当時としては画期的なことで体制に背く異端的立場を強く主張しているかのようだ。
思えばこのアルバム、何から何まで当時の常識を覆す革新的要素が詰まったアルバムだと思う。キャッチコピーも説明もないが、それ故に見る者に無言の訴えを感じさせずにはいられない。
このジャケットを見たが最後、魔性の力にコントロールされたような、自分ではどうにもならない状態にされてしまうのだ。(私の場合は直ちに購入という衝動に駆られてしまったのだが)
湖の水面下を漂う女性のドキッとするような衝撃的シーンに、私たちは先ず圧倒されるが、この写真がこのアルバムとどう関係しているのかは直ぐには分からない。
アルバムタイトル「Undercurrent」という単語も普段あまり見かけないが、調べてみると「底意、底流」という意味と分かり、その辺で何となく繋がりが見えてくる。
ビル・エバンスは、ピアノ・トリオという構成を演奏スタイルの理想と考えていた。生涯そのスタイルを主軸に据えて、ピアノ・トリオを極めて行くが、ギターのジム・ホールと組んでデュオ・アルバムを制作したのは極めて以外なことだ。彼の傑作と評される演奏のほとんどがピアノ・トリオであることを考えると、この「Undercurrent」というアルバムは意図的で野心的なアルバムで、演奏形態としては例外中の例外だが、ピアノ・トリオの名盤に劣らぬ価値ある名盤として評価が高い一枚である。
また、ビル・エバンスの代名詞である「インタープレイ」という当時としては独特な演奏スタイルは、このデュオに於いても貫かれていて、息の合ったジム・ホールとのやり取りがトリオ以上に面白い。「インタープレイ」の緊迫感の中に、サロンミュージックのリラックスした心地よさを感じさせてくれるアルバムである。
このように、このアルバムは革新的要素が色濃い実験的アルバムのように思えるが、実験が成功したからといって「柳の下にドジョウが...」的なことをしないのがエバンスの偉大なところで、その証拠にこのアルバム以降デュオアルバムは出していない。
いつ購入したかはもうすっかり忘れてしまったが、LPレコードの時代にはじめて購入し、その後、東芝EMIの「ジャズ名盤物語」シリーズとして発売されたときにCDでも購入した。