ここ最近のみなとみらいホールでのコンサートは、何故か晴天に恵まれない。
この日、6月22日の「森 麻季&仲道郁代 デュオ・リサイタル」もその例外ではなかった。
夜中から降り出した雨は朝になってその勢いは多少衰えたものの、降ったり止んだりの鬱陶しい天候に変わりはなかった。
そう、梅雨の真っ最中なのだから致し方ないと思えば良いものを、性格的になかなかそうは思えないところが何とも辛いところである。
「数日前までは梅雨の中休みで、あれほど晴れていたのに・・・」とついついマイナス思考に考えてしまうのだ。
だが、当日の彼女たちのステージは、そんな暗く沈んだ私たちの気持ちを晴れ晴れとした雰囲気に変えてしまうほどの素晴らしい内容だった。
仲道さんのピアノ伴奏に森さんのソプラノというスタイルでシューベルト、シューマンの歌曲とドニゼッティ、シャルパンティエ、グノーの歌劇から数曲が歌唱され、そうした曲を挟んで仲道さんのピアノ・ソロが披露された。曲はショパンが3曲、ドビュッシーが1曲(月の光)で、彼女のアルバムではお馴染みの曲目だ。
通常のコンサートではあまりないことだが、このステージでは作曲家についてや歌詞の日本語訳を森さんが丁寧に解説、仲道さんもソロの際、ショパンの楽曲についてクラシック初心者でも理解できるような易しい内容で説明された上で演奏されていた。こうした所謂「しゃべり」は、クラシックアーチストにとっては最も苦手とするところだろうが、仲道さんの場合テレビなどでの番組経験が豊富なためか手慣れたものだった。
実は、このふたりの共演は今回が初めてではなく、3年前に端を発しているという。
そう、あの震災の直後、2011年3月19日という複雑な時期・状況のもと前回の公演が行われたという。そのためか今回のコンサートは一貫して優しい雰囲気に包まれていた。丁寧な解説をはじめ彼女たちの人当たりの良い人間性にそれは象徴されてたいたように思う。
2曲のアンコール曲を聴き終えホールから外に出てみると、雨は既に止んでいた。
空は幾分明るさを取り戻し、雨上がり特有の薄っすらと靄のかかったような空気感が何とも心地良く感じられた。
この時、自然の力は偉大だと思った。
雨は人間にとって必要不可欠なもの、太陽の光もまた同様だが、その光は更に人間に明るい希望を与えてくれる。
昇る朝陽、沈む夕陽、そして雨上がりの雲間から差し出す太陽の光に人類はいつの時代も勇気づけられてきたに違いない、と改めてこの時思った
そして、その「自然の力」と同じくらい私たちを勇気づけてくれるのは、他ならぬこうした「音楽の力」であることを実感した次第である。