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私がデビッド・フォスターを知ったのは、「セント・エルモス・ファイアー」という映画を観たときだった。1980年代は「セント・エルモス・ファイアー」のような青春群像を描いたハリウッド映画が全盛で、次から次と作られた。当時私は映画館ではなくて、専らレンタルビデオ店へ足を運び、深夜までビデオ三昧の日々だった。

そう!あの時代、ビデオデッキという目新しい代物が世に登場し、レンタルビデオ店という貸本屋のビデオ版が「雨後の筍」の如く出現した時代だった。長く続いたレコード盤がCD(コンパクト・ディスク)という12㎝の大きさの媒体に主役の座を奪われようとしていた時代とも重なる。その先が、明るい未来かどうかはともかくとして、新しい時代が目の前に大きく拡がりつつある気配が、社会全体に漂っていた時代だった。
「セント・エルモス・ファイアー」は、そんな時代を象徴するような映画だった。当時は、映画の主人公たちの年齢と自分が近いということもあって、映画と現実とがオーバーラップした部分もあった。
若さ故の過ち、葛藤、友情、恋愛、悲哀、挫折等々、青春という誰もが味わう不安定な一時期を経験し、未来に羽ばたいて行くという、イマ風に言えば「チョッと臭い」お決まりの内容だった。ただ、青春真っ只中の私にとって、数ある青春群像映画のなかで特にインパクトを感じた作品だった。しかしながら、月日の経過とともにいつの間にか、私の記憶から消えてしまっていた。
ところが最近、思いがけないことから「セント・エルモス・ファイアー」の映画の記憶が蘇った。それはこの映画のテーマ音楽を聞いたことからだった。そのテーマ音楽を担当していたのが、今回紹介するデビッド・フォスターだ。
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彼のストリングスとシンセサイザーを駆使した優雅な楽曲は、映画のストーリーもさることながら、旋律といい、アレンジといい、すべてが当時としては新しくてワクワク感に溢れた斬新なサウンドだった。「セント・エルモス・ファイアー」のテーマ音楽は彼の代表曲になったが、彼はアレンジャーとしても才能を開花し、そのゴージャスな音楽的仕上がりは、当時のミュージックシーンの中心にいたホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」の楽曲プロデュースで見事に生かされた。もともとカントリーのドリー・パートンの曲だったが、デビッド・フォスターによってアーバンな雰囲気の曲へとアップグレードされた。
それまでのポピュラーミュージックの主流は、ロックやソウル系だったが、デビッド・フォスターはそうした従来の音楽に、彼独自の洗練された都会的センスと豪華さをプラスして、AOR(Adult-Oriented Rock)という新たな音楽ジャンルを確立したのだ。

そんな80年代の煌びやかな時代に、デビッド・フォスターの楽曲はキャッチーだった。と言うか、彼の作風が80年代のミュージックシーンを変えたのかも知れない。彼の弾くグランドピアノの優雅な響き、重厚なオーケストラの弦の音色、すべてがこれまでのポップスの常識を超えた、贅沢で絢爛豪華な作品になっていったのだ。
前述のホイットニー・ヒューストンをはじめ、80年代に活躍した多くのアーチストのヒット曲に彼の才能は生かされていった。
ロック系グループの「シカゴ」はアルバム「シカゴ16」から「シカゴ18」までをデビッド・フォスターがプロデュースし、彼らのサウンドは大きく変わっていった。同時期のジェファーソン・スターシップのヒット曲「Nothing’s Gonna Stop Us Now」もまたデビッド・フォスターが手掛けた作品かと私は当時思っていたが、実はそうではなかったようだ。ただ、それ程にデビッド・フォスターの影響力は大きかったのだ。
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青春真っ只中の当時の私は、映画「セント・エルモス・ファイアー」を初めて観た後、スケール感はまったく違うが自分自身の現実とオーバーラップさせ、羨望と憧れを抱きながら、この映画を何度か見返したことを思い出す。

ただ、この投稿を書くために、本当に久しぶりにこの「セント・エルモス・ファイアー」を視聴したが、昭和生まれの「オッサン」である現在の私には、正直もう一度観返す気持ちにはなれなかった。その理由は自分のなかで、漠然といくつかあるのだが、ここでは上手く表現できないでいる。ハッキリと言えることは、あの頃に抱いた「映画のようになれたら・・・」という熱い思いとはチョッと異質の「若さっていいな~!」というオブザーバーのような第三者的な感想に変わっていたということだ。
映画のオープニングとエンディングで流されるデビッド・フォスターのあのロングバージョンのテーマ音楽は、上述したように一時的に私の記憶から消えてしまった。それはとても残念なことだったが、しかし、あの曲は確かにすべての人を勇気づけ、明るくしてくれる何かを持っているように、いま改めて聴くと感じられる。それは旋律の良さもさることながら、デビッド・フォスターのアレンジ、サウンドが素晴らしいからだ。これからの私の人生のなかで、今度は決して忘れない一曲になるだろう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
from JDA