名門チェコ・フィルを聴く

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去る11月3日文化の日、名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の音の素晴らしさに堪能してきました。指揮は2012年にこのオケの首席指揮者に復帰したイルジー・ビエロフラーヴェク。場所は横浜みなとみらいホール、曲目は以下の通りです。

・ スメタナ : シャールカ ~連作交響詩「わが祖国」より
・ メンデルスゾーン : ヴァイオリン協奏曲 op.64
  庄司紗矢香(ヴァイオリン)
・ ドヴォルザーク : 交響曲第9番「新世界より」op.95

チェコ・フィル&ビエロフラーヴェク&庄司紗矢香
チェコ・フィル&ビエロフラーヴェク&庄司紗矢香 コンサートビラ

 

チェコ・フィルと聞いてまず思い起こすのは、やはりラファエル・クーベリック、カレル・アンチェル、ヴァツラフ・ノイマンといった歴代のチェコ人名指揮者による母国作曲家作品の名演奏です。
残念なことに、彼らの演奏を生で聴くことはできませんでしたが、数々のCDでもその熱気は充分感じ取ることはできます。

母国作曲家の作品への愛着という点では、どのオーケストラも同じでしょうが、その中でもチェコ・フィルは特別なものがあります。
それは言うまでもなく、この国とこのオーケストラが辿った歴史的悲劇に起因しているのでしょうが、それ故にオーケストラメンバーひとりひとりの自信と力強さを演奏の中にはっきりと感じ取ることができます。

歴史的悲劇といえば、指揮者もまたその例外ではありません。
記事の冒頭、今回の指揮者イルジー・ビエロフラーヴェクが「首席指揮者に復帰」と記したのも、1990年代初めの内紛による影響で彼はそれまでの首席指揮者としての職位の辞任を余儀なくされ、その後2012年に再度就任という経過があったからです。

以前、テレビで1964年の東京オリンピック、女子体操個人総合などで金メダルをとったベラ・チャスラフスカさんのドキュメンタリー番組を観たことがあります。彼女もチェコ(当時はチェコスロバキア)人として時代というか政治というか、そうした国家の情勢に翻弄されたひとりですが、彼女と同様の苦難が指揮者イルジー・ビエロフラーヴェク氏にもあったということは不勉強ながらこれまで知りませんでした。

そうした暗い過去を背負ったチェコ・フィルですが、当日は活き活きとしたスメタナ、ドヴォルザークを聴かせてくれた気がします。なかでも、オーケストラの各メンバーの表情は意外なほど明るく、何か救われた思いでした。

それとは対照的に、庄司紗矢香さんのメンデルスゾーン、ヴァイオリン協奏曲はチョッと元気がなかったような印象です。細部にわたる木目の細かさ、弱音での丁寧さなど技術的には高い評価を受けるでしょうが、残念ながらこの日の演奏では音の線が全体的に細かったように感じます。
演奏は体調など微妙に影響するものですからいたしかたありません。
次回に期待したいところです。

とは言え、チェコ・フィルの手馴れた演奏とこちらも聴きなれた曲目ということで、演奏者、観客とも肩肘張らずリラックスした時間を共有できたように感じます。殊のほか女性メンバーの表情の豊かさと自由奔放な演奏振りがこの国チェコの現状を象徴しているようで、微笑ましい限りです。演奏を聴きつつ、精神的不安や緊張が知的生産や芸術活動に如何に悪影響を及ぼしているかを確信しました。今のこうした落ち着いた情勢がいつまでも続くことを願わずに入られません。

それにしても指揮者イルジー・ビエロフラーヴェク氏のサービス精神ぶりには何とも感動の一言です。アンコールで3曲も演奏していただいたのですから。彼が親日家かどうかは分かりませんが、聴衆を大切にするというその思いは充分伝わってきたように思います。

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